3人の翻訳家が編んだアメリカ野球アンソロジー  かわうそ堂・泉谷武蔵

野球小説傑作選 『12人の指名打者』前編野球小説傑作選 『12人の指名打者』前編
ジェームズ・サーバー他/ 稲葉明雄・永井淳・村上博基訳
光文社/2003年 光文社文庫
文春文庫/1983年

今回ご紹介するこのアンソロジーは、ベースボール好きの、実績あるアメリカ野球小説集です。タイトルの数字が示すとおり、個性豊かな12名の作家による12篇の短篇が収録されています。どれも面白い作品ばかりなので、前半・後半6作品ずつに分けてご紹介していこうと思います。
「消えたピンチ・ヒッター」ジェームズ・サーバー
シーズン終盤に調子を崩して首位陥落したチームの監督が代打に雇った道化の小人が巻き起こすドタバタ劇。軽快な語りが素晴らしいコメディ。
ジェームズ・サーバー(1894-1961)はニューヨーカー誌で多くの作品を発表した。邦訳は「空中ブランコに乗る中年男」「虹をつかむ男」など。
「ザ・ルーキー」エリオット・アジノフ
苦節16年のオールド・ルーキーについに巡って来たメジャー・リーグでのチャンス。しかしここで打たなければマイナー落ち、二度と昇格はない。この過酷な運命に読む方にも緊張感が高まる。短い紙幅でドラマチックに描ききる筆力に圧倒される。
エリオット・アジノフ(1919-2008)はブラック・ソックス事件を描いた「エイトメン・アウト」の著者。この作品は映画化もされた。
「アンパイアの反乱」ポール・ギャリコ
誰も逆らうことができない球界一の堅物アンパイアがある日突然コメディアンのような衣装でスタジアムに現れた。その裏には女あり。前代未聞の叛乱を鎮めるべく企てられたコミッショナー事務局の秘策とは? 珍しくアンパイアにスポットを当てた物語。
ポール・ギャリコ(1897-1976)はスポーツ記者から小説家に転向。「さすらいのジェニー」やハリスおばさんシリーズで知られる。
「双生児の秘密」ホーク・ノリス
ある日オイル・シティのマイナー球団にテスト入団した双子。周囲のからかいを諌めた主人公のビルは二人の信頼を得る。チームでは素晴らしい活躍を見せる二人だが、どこか妖しげなところもある。ついに二人とともにメジャーにあがったビルが知ることとなる双子の重大な秘密とは? 奇妙な味わいの野球小説。
ホーク・ノリス(1913-1977)はシカゴのジャーナリスト。小説も書いたが邦訳は本作のみ。
「大いなる日」ジョン・オハラ
貧しい黒人の洗車係がある日ちょっとした賭けに勝ち10ドルを得る。賭けていたヤンキースへのお返しにと、妻には内緒で一人息子とヤンキースタジアムで野球観戦をする。その試合で起きたささやかな出来事。
ジョン・オハラ(1905-1970)は、ローレンス・ブロックも敬愛する犯罪小説家。田中小実昌訳の「親友・ジョーイ」はフランク・シナトラ主演で映画化もされている(『夜の豹』)。
「夢のカーヴ」チャールズ・アインスタイン
シックス・イニング・サムはハンサムな好青年だが、決まって6回に得意のカーヴを狙い打ちされる。そしてついにはトレードに出され、恋人とも離ればなれになってしまう。配球の問題でいつももめていた古巣のプレイング・マネージャーのヒンマーリングにサムが最後に投げた球とは?チャールズ・アインスタイン(1926-2007)は、映画の原作や短篇ミステリなどで知られる作家。(2013-2)
(後編に続く)

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